高血圧診療

高血圧診療

動脈硬化や臓器障害を知る方法

20-30年前は、高血圧治療を開始するのが大変遅い時代でした。全身各所の動脈硬化がかなり進んでいる方も多かったです。

脳卒中の方が非常に多かったですし、診察したときには、腎硬化症になっている方もいて腎機能低下などもみられました。眼底検査では、動脈硬化が進んだ方が多く、動脈瘤などの問題が出て、初めて高血圧の診断がつく方も多かったです。

近年は、健康診断が発達して、高血圧による動脈の障害が軽微なうちに対応が開始できる方が非常に多いです。生活習慣改善や薬物療法で上手にコントロールできるようになっています。内服薬も進歩していて、以前は毎日3-4回内服するものが主流でしたが、現在では一日一回の内服で十分なものが主流です。

高血圧治療の目標が、緊急処置、短期的な疾患進行予防の目標がありましたが、現在では、様々な疾患の根本にある動脈硬化の予防まで広げて考えていきます。

高血圧治療の開始時は、動脈硬化や臓器障害の現状を正しく評価することが大事です。

なにより症状がない疾患である高血圧では、正当な現状の評価(測定の仕方、家庭血圧の併用)が大切です。

現状の各種評価を元に、高血圧治療を計画し、動脈硬化の予防や進行抑制をします。そして遠隔期に血圧治療の再評価も検討します。

動脈硬化や臓器障害の評価確認のための確認事項は以下です。
  1. 脳梗塞、脳出血の既往の確認
  2. 狭心症、心筋梗塞の既往の確認
  3. その他血管イベントの既往の確認
  4. 胸部X線検査、心電図
  5. 採血検査、尿検査
  6. 心臓超音波検査、頚動脈超音波検査、腹部超音波(腎臓サイズ)
  7. ABI(ankle brachial pressure index;上肢下肢血圧比)
  8. Pulse Wave Velocity(脈波伝達速度)
高血圧の治療の必要性

高血圧は、痛みがありません。高血圧によって心肥大が起こり、心筋が厚く硬くならない限り息切れも起こしません。なぜ高血圧の治療は必要なのでしょうか?

それは高血圧の様々な研究検討によって、動脈障害が発生し、動脈硬化が引き起こされることがわかっているからです。高血圧は、体全身の血管の動脈硬化だけでなく、心臓の心筋を肥大させ硬くすることや腎臓の機能を低下させることもわかっています。高血圧で血管障害から動脈硬化が発生し、臓器障害へ移行しているかどうかを知るのは大切です。

血圧が高いということは、血液によって動脈の壁が血管の内側から強く押されるようなものです。血圧の低い方が血管の内側からの力が弱いと考えてください。

我々の心臓は一日10万回収縮しますので、毎日10万回血管の内側から押されている感じです。我々の体は押されるようなストレスがかかるとそれに反応するように厚くなったり硬くなったりする反応が出ます。(ゴルフクラブを握るとマメができますね。このイメージです。)糖尿病で血糖がストレスになりますので、血管が高血糖に反応するとやはり動脈硬化が出ます。脂質異常症で、血管がコレステロールに反応すればやはり動脈硬化が出ます。喫煙の血管へのストレス、睡眠時無呼吸症候群の無呼吸時の低酸素のストレス、呼吸停止中の血圧上昇(寝ている間に口を抑えられているようなものです!)や自律神経の活性化によるストレスが、血管を厚く硬くし、動脈硬化を起こします。

様々な要因で動脈硬化が発生しますが、要因ごとのインパクトは、随分異なります。添付の表をご参照ください。これは、高血圧のガイドラインで掲載されたものです。日本人の死亡原因が縦軸に要因毎に記載されています。横軸は、毎年の各死亡要因がなかった場合に死亡を免れた人数の記載があります。事故や自殺は含まれていません。

喫煙がもしすべての方が禁煙できれば、毎年13万人生きながらえたことを示しています。その中で喫煙による死亡は、癌によって起こっているデータです。

次の高血圧は、毎年11万人なくなっています。全てが心血管病による死亡です。3番目は、「動かない生活」です。毎年5万人強の方が死亡しています。

2014年発表の資料ですので、それ以降、喫煙者は減っているでしょうから現在では、その年間死亡に対するインパクトは少なくなっているかもしれません。

心血管病はすなわち動脈硬化を示していますので、高血圧患者が他の要因に比べて非常に多いのを勘案しても、動脈硬化予防や進行抑制については、高血圧治療が非常に大切なものと理解できます。