院長ブログ

検診で心電図異常を指摘されたら?【所見の具体例を提示】

 検診で心電図異常を指摘されたらどうするか?というのは、多くの人が気になる質問だと思います。2024年1月4日付けのブログもご参照いただければ幸いです。

 今回は、注目すべき点について、所見の具体例に付いて記載します

ST変化やT波の異常の場合

 心電図におけるST変化やT波の異常は、心臓の虚血や心筋梗塞など、さまざまな病態を示唆する可能性があります。ST部分の上昇は、急性心筋梗塞や異型狭心症など、冠動脈の完全閉塞を示すことがあり、T波の異常は心室筋の状態を反映しています。しかし、これらの所見は個人差が大きく、必ずしも特定の疾患を意味するわけではありません。
 ST部分の上昇が、検診の無症状での心電図記録では、急性心筋梗塞や異型狭心症などの緊急事態を反映することは少ないと思われます。この心電図変化がある方は、少なからずおられますが、多くは無症状で、安全な場合が多いです。気になるようであれば循環器内科へご相談ください。
 一方ST低下やT波の異常は、様々な心筋障害を想起します。原因として、高血圧が多いです。日中の高血圧がない場合、夜間の睡眠時無呼吸症候群なども考えてみるべきと思います。夜間の異常な無呼吸は、低酸素状態を引き起こし、無自覚な高血圧となっていることがあります。また、高血圧がないST低下は、心臓の筋肉が肥大したり薄くなったりする心筋症のことがあるため、心臓超音波が勧められます。ホルモンや電解質異常も原因の一つで、採血検査で確認可能です。心臓弁膜症で、心臓の負荷がある場合にはST変化が出ます。やはり心臓超音波検査が勧められます。頻度は少ないですが、胸郭変形や漏斗胸があり、心電図変化が出ている方もいます。また女性ホルモンはST変化をきたす場合があります。
 ST変化やT波の異常の所見が出ても精密検査を受けない場合、次の検診の機会は逃さないようにして、経時的な記録をお勧めします。変化が出るようであれば、循環器内科への受診をおすすめします。

R波の増高不良の場合

 R波の増高不良やpoor Rなどと指摘されてくる方がいます。心電図におけるR波の増高不良は、心臓の電気的活動を示す波形の一部であり、R波が通常よりも小さいことを意味します。この所見は、単に測定時の体位や体型による影響であることが多く、必ずしも重大な健康問題を示すわけではありません。しかし、左心室肥大などの状態を示唆することもあります。特に、高身長ややせ型の若い方においては、健康な人にも見られることがあります。また、心電図の記録方法に誤りがある場合にもこのような結果が出ることがあります。R波の増高不良が指摘された場合、循環器内科での精密検査を受けることが推奨されますが、問題がないと診断されることも多いです。もしも胸部症状がある場合には、心筋梗塞などを疑うこともあるため、専門医にみてもらうのが良いでしょう。
 高血圧、脂質異常、糖尿病、喫煙、親族に冠動脈疾患患者の存在などのリスク高値の方の場合には、無症候性の心筋梗塞、虚血性心疾患を疑って、心臓超音波検査などが検討されます。

心室性期外収縮や上室性期外収縮の場合

 これらの不整脈は一般的には無害であり、健康な人にも見られることがありますが、時には心臓の病気が原因であることもあります。心室性期外収縮は、心室から発生する早すぎる拍動であり、上室性期外収縮は心房からのものです。治療の必要性は、これらの期外収縮の頻度や、他の症状、基礎となる心臓の状態によって異なります。スクリーニング検査で、心臓の基礎疾患を検討する必要がある方を探し、必要時に精密検査お行います。
 特に症状がない限り、治療の必要性が少ないことが多いです。しかし不快な症状がある場合や、心臓病が原因である場合は、治療が必要になることがあります。症状があったり、不整脈の数が多い場合には、心不全の原因になる可能性があるため、採血検査、24時間心電図検査(クリニックで装着し、次の日装置を外す検査)や心臓超音波検査を施行することがあります。
 治療法には、薬物療法やカテーテルアブレーションなどがあります。
 不整脈が心臓病の兆候である場合、基礎となる病気の治療が最優先となります。例えば、高血圧や冠動脈疾患などの病気が期外収縮の原因である場合、これらの病気を管理することで不整脈が改善されることがあります。また、ライフスタイルの変更、例えば喫煙の中止、アルコールの摂取制限、ストレス管理、適切な睡眠、カフェインの摂取制限なども、不整脈の管理に役立つことがあります。

心房細動の場合

 脳梗塞や心不全の原因になる可能性があるため、循環器内科を受診しましょう。心房細動の心電図所見を指摘されたら、以前の検診結果も確認してください。循環機内科の受診の際には、以前の検診結果があれば持参するようにしましょう。無自覚で心房細動になっている場合には、いつから心房細動になっていたかの情報が治療判断に大切なことがあります。以前の心電図の確認をしましょう。もちろん以前の心電図の記録がなくても、治療検討のご相談は可能ですのでご安心ください。

執筆者
院長 宮本貴庸
山形大学医学部 卒業
武蔵野赤十字病院循環器科 部長
東京医科歯科大学医学部 臨床講師
武蔵野赤十字病院総合診療科 部長
東京都教職員互助会 三楽病院循環器内科 部長
武蔵野赤十字病院循環器内科非常勤医(水曜日)として勤務中